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識者コラム「現論」 「親ガチャ」に潜む現実
 子の人生に多大な影響 今野晴貴
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 今野晴貴氏
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 今野晴貴氏

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 「親ガチャ」という言葉をご存じだろうか? 若者たちがインターネット上のスラングとして使い始めた言葉だが、9月にテレビ番組で取り上げられ反響を呼んでいる。

 「ガチャ」とは携帯ゲームの用語で、定額の課金によってアイテムなどを手に入れるシステムを指す。つまり、「どんな親を持つかで人生が決まってしまう」という意味で使用されている。

 自分の親を「ガチャ」に例えるのは不謹慎だ。また、「自分の境遇を親のせいにするのはよくない」という批判もあるだろう。だが、若者たちがこの言葉を使ってしまうのには、背景がある。

 ▽精神疾患の原因

 NPO法人「POSSE」にも、若い世代から「親に関係する相談」が頻繁に寄せられている。

 例えば、首都圏で1人暮らしの20代男性は、うつ病の影響でアルバイトを長く続けることができず、困窮していた。うつ病の原因は、幼少の頃に親から身体的虐待を受けたことにある。小学生の頃にはすでにうつ病の診断が下されていたという。高校も、親が教育費を出さないため諦めた。

 また、20代の女性は、幼少期から父親が母親に暴力をふるう環境で育った。大学に進学できたが、その頃から父親は「おまえの生活費を出しているのは俺だ、おまえは俺のものだ」と言い放ち、虐待が自身にも及ぶようになった。彼女は学費のためにやむなく「夜の仕事」を選んだが、それが原因でうつ病と摂食障害に陥り、大学中退を余儀なくされた。

 2人の相談者はその後、生活保護を受けて回復に向かっている。

 このような家族による虐待の背景には、親世帯の所得の低下や労働環境の影響が考えられる。また、直接の暴力を伴わなくとも、両親の不和や乱暴な言動、ネグレクトなども子どもに深い傷を与え、これまで想像された以上に子どもの人生に関わることが分かってきている。そうしたケースは虐待とは区別され、マルトリートメント(不適切な養育)とも呼ばれる。

 ▽教育費と住居

 日本の社会保障の不備も見逃せない。子育て費用は、幼稚園から大学まですべて公立に通わせた場合でも約1千万円、すべて私立の場合は約2千万円に上る。諸外国に比べても、日本は教育費の負担が非常に重い。家計負担の大きさが、親の所得によって子どもの将来を狭めてしまう現実を作り出しているのだ。

 また、負担の重さから、中高生の子どもに「家計に貢献しないなら出ていけ」と「自立」を迫る事例も珍しくはない。とくに女性の場合はその結果「夜の仕事」を余儀なくされたり、犯罪に巻き込まれたりするケースも多い。さらに、ある程度裕福な家庭では、高い教育費の負担から、子どもに過剰な期待を寄せてしまう「教育虐待」も問題化している。「せっかく高いお金をかけているのだから、成果を出してほしい」と、成績の上がらない子どもの人格を否定してしまうことは珍しくはない。「これだけあなたに投資してきたのだから、親の言うことを聞くのは当たり前」と支配的にふるまうことにもつながる。

 教育費負担の重さが、親から子への経済的な支配関係を強め、貧困家庭では自立圧力として、中流家庭や裕福な家庭では教育虐待やマルトリートメントとして現れてくるわけだ。

 住居政策の脆弱さも、親子の支配関係を強めている。日本では敷金・礼金に加え、家具や家電購入など、1人暮らしを始めるための初期費用の平均は50万円程度と言われている。賃貸契約を結ぶ際の連帯保証人の問題もある。虐待などで家族関係が悪化している場合には、親を連帯保証人として立てられないケースがほとんどだ。

 以前は中卒、高卒の若者を正規採用し独身寮に入れる会社が多かったが、今ではほとんどない。非正規雇用で働いていても、1人暮らしできないので虐待する親元から抜け出せない、という相談事例は非常に多い。

 岸田文雄首相は日本の資本主義を改革し、分配を強化するという。若年世代への給付金も検討されているが、それだけでは「親ガチャ」に現実感を持ってしまう状況は変えられないだろう。教育や住居を選べるような、社会保障政策の充実を同時に図っていくことが必要である。(NPO法人「POSSE」代表)

   ×   ×  

 こんの・はるき 1983年仙台市生まれ。若者の雇用問題に取り組むNPO法人「POSSE」代表。2013年、「ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪」(文春新書)で大仏次郎論壇賞。著書に「求人詐欺」「ブラックバイト」など。

2021/10/22
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