プライムニュース
国内外最新ニュースの核心に迫る

識者コラム「現論」 問われる日本の地域像
 TPP巡る駆け引き 遠藤乾
  • 印刷
 遠藤乾氏
拡大

 遠藤乾氏

 遠藤乾氏

 遠藤乾氏

 地方から見ると縁遠く映るかもしれないが、環太平洋を巡る外交上の駆け引きが激しい。日本の政治が総選挙で忙殺される中、国の進む方向を誤らぬよう、心してかからねばならない。

 環太平洋連携協定(TPP)は、トランプ政権期に米国が抜けた後、日本が主導して11カ国で再出発した。これまで日本を含めて8カ国が批准し、発足している。

 日本では加盟申請時、農業自由化との関係で賛否が一大争点となったが、それ以来このフォーラムをどのように運用していくのか正面から議論されることはまれである。

 去る9月、中国と台湾が相次いで加盟申請した。これは次世代の地域秩序を占う意味で重要な動きである。

 論者によっては、中国という巨大市場を見据え、円滑な経済活動を保全する展望を持つだろう。別の論者は、米中・中台対立のはざまにあって日本が紛争に巻き込まれる政治的リスクを見いだす。しかしこれは、環太平洋地域の政治・経済を日本が主体的に形作る絶好の機会と捉えられよう。

 日本は安全保障を米国に頼り、経済では中国と密接な関係にある。通常なら米国とは同盟、中国とは協商を試み、両者とうまくやってゆきたい。

 ▽難しい政経分離

 けれども習近平政権下の中国は、国内ではウイグルから香港まで人権抑圧を強め、政治弾圧を繰り返している。国外でも、南シナ海など拡張的な現状変更を推し進め、内なる人権侵害を外部に投射する。2年前、北海道大の教授が学術交流に招かれたまま拘束されたのは記憶に新しい。そのような国とうまくやるのは容易ではない。

 それでも政治と経済は別だとする人も多かろう。日本の輸出入の2割は中国向けだ。成長する一大市場を軽視するのは、日本自身の富の蓄積からしても賢明でない。

 しかし中国は世界の自由貿易体制から最も利益を得る国でありながら、経済的相互依存を時に武器化する。オーストラリアの石炭やワイン、台湾のパイナップルは、中国との政治的立場が異なるだけで、事実上、中国市場から締め出される。日本もまた、2010年、先端技術に欠かせないレアアース(希土類)の輸出を止められた。いわゆる経済強制外交である。

 結局、政経を分離しようにも中国自身が融合してかかるわけだ。米中覇権競争の中で、米国もまた、関税、技術から留学まで政経分離を見直し、文化の領域にまで政治対立を持ち込む。

 ▽米中同時加盟も

 そうした文脈に照らすと、このTPPは幾つかの現代的な問題に対処する枠として、見直す価値が出てこよう。

 第一に、阻害されてきた自由貿易を安定させることである。中国の政経融合の歴史からすると、経済強制外交の根絶は難しくとも、TPPへの加盟と引き換えに、その問題性を自覚させ、最小限に抑えるよう、中国に認めさせるべきだ。

 第二に、米中対立の激化を防ぐことに寄与できるかもしれない。既に米バイデン政権自身、中国との対立を管理し、環境分野などでの協力を模索している。TPPへの米中同時加盟は夢物語ではなく、中国自身もそれを通じて米中対立を緩和するよう望んでいる節がある一方で、米国は元々TPPに乗り気だった。中国の先行加盟によってそれが中国色に染まるのを望ましいとは思わないだろう。来年秋の中間選挙の後などのタイミングを見据えて、粘り強く米国の復帰を働き掛けていくのが良策である。

 そうすることで第三に、日本が望ましいと思う地域秩序の創造に向かう「てこ」としたい。特に、自由で民主的な台湾を中国と平和的に共存させることは、近場に尖閣や沖縄を抱える日本にとっても死活的に重要だ。

 日本にはTPPを主導してきたという政治的な資本がある。中国は加盟申請し審査される側である。日本を含めて一国でも反対すれば加盟は実現しない。政治的には圧倒的に有利なのである。逆に失うものは大してない。既に中国とは地域的な包括的経済連携(RCEP)を締結済みで、経済関係は下げ止まる。

 中国によるTPPへの加盟申請を契機に米国と共闘し、できれば加盟を促し、台湾をこの秩序に組み込むよう注力する。総選挙後はそんな外交の季節にしたい。(北海道大公共政策大学院教授)

   ×   ×  

 えんどう・けん 1966年東京都出身。北海道大卒業、英オックスフォード大で政治学博士号取得。米ハーバード法科大学院研究員、台湾外交部研究フェロー、仏パリ政治学院客員教授などを歴任。著書に「統合の終焉」(読売・吉野作造賞)「欧州複合危機」など多数。2006年から現職。

2021/10/15
もっと見る
 

天気(12月3日)

  • 14℃
  • 7℃
  • 20%

  • 14℃
  • 1℃
  • 50%

  • 14℃
  • 6℃
  • 20%

  • 14℃
  • 4℃
  • 20%

お知らせ