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視標「被害者情報秘匿制度」 無罪推定ルールに抵触
 より進む「裁判秘密化」 弁護士 趙誠峰
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 弁護士の趙誠峰氏
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 弁護士の趙誠峰氏

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 今、裁判の「秘密化」への流れが止まらない。

 法制審議会(法相の諮問機関)は16日、一定の要件の下で犯罪被害者の氏名、住所などの情報(被害者情報)を被疑者・被告人や、場合によってはその弁護人にも秘匿する制度の導入を決めた。今後、立法化へ向けた議論の舞台は国会に移る。

 これは、現在の刑事手続きでは、被疑者・被告人に交付される逮捕状や起訴状などの書類に被害者情報があることによって、被害者の名誉が害されたり、危害を加えられたりするおそれがあるとされているのが発端だ。

 法制審が導入を決めた制度では、名誉や社会生活の平穏が侵害されるおそれがある場合などは、被疑者・被告人らに被害者情報を秘匿できるようにする。

 一聞すると正しいことのように聞こえる制度だが、大きく三つの問題をはらんでいる。

 一つは刑事手続きが最初から「被害」ありきで進もうとしているところだ。裁判で有罪とされるまで無罪と推定されることは、国際人権規約にも定められた世界共通のルールで、有罪確定まで裁判の中に「被害者」は存在してはいけない。「本当にそのような被害があったのか」が厳格に判断されなければならない。

 ところが今回の制度は、逮捕という刑事手続きのスタート地点から、裁判所が「被害者」を認定し、被疑者・被告人に情報を秘匿する措置を取ろうとしている。裁判が始まる前から「被害」ありきで結論が出てしまっているようなものだ。これは無罪推定という根本的なルールに抵触するのではないだろうか。

 二つ目は、被疑者・被告人やその弁護人の防御の権利を大きく制限するということである。

 刑事手続きでの最大の不幸は冤罪の発生だ。冤罪を防ぐには、被疑者・被告人や弁護人が最大限防御を尽くせる仕組みにしなければならない。そのため「被害者」とされている人について弁護人はあらゆる角度から調査をする責務があるが、その氏名といった基本的な情報すら秘匿される制度の下では、十分な防御を尽くせなくなる。

 防御上の不利益に配慮し、被害者情報の秘匿を限定する規定はあるものの、いったんこのような制度が作られれば、運用は弛緩し、あらゆる場合に情報が秘匿される危険性が極めて高い。

 三つ目は、裁判自体が秘密化するということである。憲法には裁判の公開が規定されている。市民が裁判を傍聴し、メディアが報道することで裁判の内容を広く国民が知ることができる権利を保障するとともに、裁判が正しく行われているかを国民が監視するためだ。

 しかし、証人尋問で証人と傍聴席との間の遮蔽(ついたて板の設置)が極めて容易に認められるなど、裁判の秘密化が進行している。今回の制度下では、市民が裁判を傍聴しても、被害者とされる人が誰なのかも分からず、ますます裁判を正しく理解できなくなる。

 また判決書でも被害者情報が秘匿されれば、裁判手続きを検証することが制限される。判決書は歴史的事実の記録であり、健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源だ。適正な情報管理などは必要だが、裁判の秘密化による弊害、不利益は計り知れない。

 昨今の裁判秘密化への流れはあまりに急速かつ、その弊害に対してあまりに無頓着である。

   ×   ×

 ちょう・せいほう 1980年福井県生まれ。早稲田大大学院法務研究科修了。2008年弁護士登録(第二東京弁護士会)。刑事弁護を数多く手掛けてきた。早稲田大非常勤講師も務める。

2021/9/17
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