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 生まれ育った兵庫県淡路島の光景にカメラのレンズを向け、89歳の今もシャッターを切り続ける。南あわじ市の写真家、野水正朔(のみず・まさあき)さん。1950年代から70年代の作品をちりばめた「淡國写眞帖(たんこくしゃしんちょう)」が、東京での初個展として8月31日に開幕。四方を海に囲まれ野山が広がる島の自然、だんじり祭りなどの習俗、淡路人形浄瑠璃に代表される伝統芸能…。約60枚のモノクロ写真に懐かしい昭和の風景がよみがえる。(共同通信=豊田正彦)

 ▽いま写さんと

 温暖な瀬戸内海に浮かぶ淡路島は本州、四国と橋でつながったが、豊かな自然と人情は昔のままだ。野水さんは渦潮で名高い鳴門海峡に近い島南部の市村(いちむら)=現・南あわじ市=で32年に出生。太平洋戦争下の少年時代を過ごした。戦後、郵便局に勤務の傍ら、52年からカメラを手に。戦後の混乱がようやく収まってきたころだった。

 「いま島の光景を写さんといずれは消えてしまうんやないか。そう思って撮り始めました」。父の栄助さんに有り金をはたいて買ってもらった中古カメラは、当時としては高価な9800円。被写体を求めて自転車で島内を走り回った。

 ▽「無言の帰還」

 技術はカメラ雑誌を読んで独学した。4年ほどたったころ、写真家としての道を決める被写体に出会う。「無言の帰還」と名付けた1枚だ。太平洋戦争で戦死した夫の遺骨を抱きしめた妻らの葬儀の列が進む。遺影を持つ先頭の男性は厳しい目でカメラをにらんだ。「レンズを向けにくかった。でもこんな悲劇が再び起きたらいかんとの思いが頭に浮かんだ」と写真を撮った。

 後に徳島県の人形浄瑠璃の人形師を写した際、最後に目を入れることを人形師から「性根を入れる」と聞いた。葬列に「手を震わせながら」シャッターを切った。まさにカメラに「性根」が入った瞬間だった。

 ▽島を撮り続け

 コンテストにも応募した。「最初は落選ばっかりやったけど、そのうち入選して興味が湧いた。淡路の文化と生活を写した作品がこの『淡國写眞帖』です」。ある時、「写真家の先生」から「淡路島の写真ばかりだと1等賞は取れない」と言われたが、気に留めず目の前の島を撮り続けた。「結果として島の文化が撮れた。今ではかえって良かったと思っています」。初めてカメラを操った時の気持ちは自己の愛郷心にも支えられ、貴重な「昭和の証言」を切り取ることができた。

 今も島を巡る。現在の機種はオートのカメラだが、撮影は昔と同じ手動モードにする。「写真の本質は記録やと思う。失敗もあるけど、あきらめんことが新しい表現につながる」と手作りの創作が一番という信念を貫いている。

 ▽生涯現役

 お気に入りの撮影スポットを尋ねると「西浦(島の西海岸)かな」と即答した。播磨灘に面し、はるか小豆島の島影や四国本土の山々を望む海辺だ。「夕日が沈む時、群れになった鳥が飛んだり、飛行機雲が輝いたり、船の航跡があったり…」。優しい口調の説明を聞くと、そのまま写真の情景が目に浮かぶようだ。

 現在、5カ所ほどのカメラ教室で講師をしている。「頼りにされているから、死ぬまでやらんといかんかな」。生涯現役の写真家は会う人にロマンと元気を与える。

 野水正朔作品展「淡國写眞帖」は東京都千代田区一番町25番地 JCIIビル JCIIフォトサロンで9月26日まで。入場無料。毎週月曜日休館。問い合わせ電話番号は03-3261-0300

2021/9/15
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