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視標「欧州のインド太平洋戦略」 硬軟両様、存在感狙う
 米の対中包囲網を警戒 帝京大教授 渡辺啓貴
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 渡辺啓貴・帝京大教授
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 渡辺啓貴・帝京大教授

 渡辺啓貴・帝京大教授

 渡辺啓貴・帝京大教授

 英空母「クイーン・エリザベス」を旗艦とする英米オランダ合同空母打撃群が横須賀に寄港し、5月に来日した仏海軍と同様に自衛隊と合同演習を実施、東シナ海や南シナ海の航行の自由と安全のための示威行動をした。

 秋にはドイツのフリゲート艦による東シナ海への就航・合同訓練も予定されている。各国はそれぞれインド太平洋に関する外交戦略を近年発表しており、欧州連合(EU)も共通政策としてインド太平洋戦略の骨子を4月に打ち出している。

 しかし欧州各国の間のインド太平洋戦略には温度差がある。EUを離脱し、「グローバル・ブリテン」と称して世界規模で多角的な外交・安全保障戦略を展開しようとする英国は、米国との協力関係を最も重視する意味では日本と協力しやすい。マダガスカルからポリネシアを含む広い地域にかけて安保面で関与しているフランスが最もこの地域への関心は強く、中国の膨張政策に大きな懸念を持っている。

 ドイツは経済外交が主流なので中国、韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)への配慮は英仏よりも大きい。各国の個別の思惑はさまざまだが、この地域の経済と安保への関心は急速に高まっていることは確かだ。

 欧州の思惑は、この地域の安全保障確保のための戦略にある。米国が意図する対中包囲網に加わることには警戒的だ。経済発展の大きな可能性を秘めたこの地域の安定は不可欠であり、航行の自由や民主主義、人権を尊重する体制の安定で日米欧は一致する。

 しかしそれは即、中国敵視や対中包囲網政策とはならない。EUが2019年「EU・中国戦略展望」で中国を価値観や考え方が違う「システム・ライバル(制度面の競争者)」と性格づけたことはEUの警戒感を物語っているが、一方で昨年末、滞っていたEU・中国包括投資協定を締結した。EUの対中政策は「接近」と「警戒」という硬軟両様の対応なのである。

 EUは気候変動や電気自動車(EV)などでの中国との協力を期待する。米中衝突には巻き込まれたくない。それがEUの本音だ。トランプ前政権時代の米欧摩擦の傷が癒えていないことからすれば、なおさらである。

 欧州から見ると、米中二大国を中心とした国際秩序は望ましくない。まして米中対立には益するところは少ない。であれば、この地域の安定は喫緊の課題であるし、そこに欧州の存在感を示しておかねばならないというのが欧州のインド太平洋戦略の趣旨だ。

 従って、それは東シナ海や南シナ海だけをターゲットとした戦略ではない。文字通り、インド太平洋という広域を対象とする世界戦略の一環としての欧州の「生き残り戦略」なのである。背景にあるのは、米中二極ではなく、欧州も主要な役割を担う多極的な世界観だ。

 EUのインド太平洋政策は、ユーラシア地域も含む「EU・アジア・コネクティビィティ(連結性)戦略」と結びついている。欧州はアジア欧州会議(ASEM)、ASEAN地域フォーラム(ARF)など東南アジアとの関係の再活性化を意図してもいる。この地域は日本が重要視してきた舞台である。地域的な包括的経済連携(RCEP)などの多国間枠組みでの日欧関係の発展は、インド太平洋戦略の円滑な推進に不可欠であろう。

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 わたなべ・ひろたか 1954年福岡県生まれ。パリ第1大大学院修了。東京外大名誉教授。2019年から現職。専門は国際関係論、文化外交論。著書に「アメリカとヨーロッパ」など。

2021/9/14
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