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横断幕を手に神戸地裁に入場する強制不妊訴訟の原告団たち=8月3日、神戸市中央区橘通2
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横断幕を手に神戸地裁に入場する強制不妊訴訟の原告団たち=8月3日、神戸市中央区橘通2
障害者の出生防止などの優生政策を推進した「不幸な子どもの生まれない県民運動」の資料。兵庫県は障害者を不幸と断定している=神戸市中央区
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障害者の出生防止などの優生政策を推進した「不幸な子どもの生まれない県民運動」の資料。兵庫県は障害者を不幸と断定している=神戸市中央区
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 旧優生保護法(1948~96年)下での障害者に対する不妊手術を巡る訴訟の判決が8月にあり、神戸地裁は、国の優生政策の根拠となった旧法を違憲と断じた。兵庫県は66~74年に「不幸な子どもの生まれない県民運動」として、全国に先駆けて優生政策を推進した過去がある。県が同運動の差別性を総括、謝罪したことはなく、司法によって旧法が否定された今、過ちと向き合わない県の姿勢が問われている。(那谷享平)

■県民運動の総括なく

 同運動で県は、遺伝性疾患や障害のある子どもらを「不幸な子ども」と定義し、出生の防止を奨励。不妊手術に独自の補助制度を設け、全国初となる羊水検査費用の負担制度も導入した。並行して医療体制の整備や保健指導などの母子保健対策も進めた。

 同運動は74年、障害者団体からの批判を受け、県が「よい子を生みすこやかに育てる運動」と改称する形で終了。その後、県は運動をどのように総括したのか。神戸新聞は、74年以降で県の見解が示された文書を情報公開請求した。

 開示されたのは、2017年以降、障害者団体などからの質問に県が答えた文書8件。開示資料で、県は「1971年に作成した冊子の中で運動を検証済み」としていた。冊子は運動期間中に作られており、障害者に差別的な施策の反省は含まない。が、「今後検証を行う予定はありません」と明記している。

 障害者を不幸な存在とし、不妊手術を推進した点については「現在では不適切であったと考えている」との表現にとどめる。県の立ち位置を「国の機関として、旧法に基づく施策を執行する立場」と釈明。独自予算も「国施策の徹底を図るもの」と説明している。

 強制不妊手術の実態を研究し、県に運動の検証を求めてきた立命館大学の利光恵子客員研究員(生命倫理)は、運動が兵庫から全国に広がり、「優生思想や障害者への差別意識を深く社会に根付かせる上で大きな役割を果たした」と指摘。県による検証は「全くなされていない」とする。

 日本の優生政策の正当性は近年、根底から否定されている。県が運動の根拠とした旧法は2019年以降、神戸を含む4地裁が違憲と判断。同年4月、不妊手術被害者の救済法成立時に「おわび」を盛り込んだ首相談話が発表された。

 神戸市で障害者団体の運営に携わる大学非常勤講師、吉田明彦さんは「県は独自の施策を行っており、独自の総括や謝罪、被害者救済をする必要がある」と話す。

■当時の社会、運動を受容

 「不幸な子どもの生まれない県民運動」の推進時、兵庫県は精神障害者について「生まれること自体が不幸」などと断言していた。こうした言説は旧優生保護法下の社会で受容されていく。

 運動は1966年、金井元彦知事(当時)の肝いり施策としてスタート。兵庫などをモデルに、70年には類似の運動が全国の大半の県に拡大した。経済成長を支える福祉の拡充とコスト抑制が求められる時代背景があった。

 兵庫県は運動の普及ぶりを自賛。当初はメディアも好意的に取り上げ、神戸新聞は66年3月28日付の朝刊で、運動に期待する社説を掲載。その後も紙面上や書籍などで、運動のPRや啓発に協力した。

 一石を投じたのは、障害者たち自身だった。74年、脳性まひのある人たちの団体「青い芝の会」が抗議し、県は運動を改名。ただ、75年に運動を肯定的に取り上げた書籍を改訂増刷しており、政策を完全に転換したわけではなかった。

■原告2人が運動中に手術被害

 旧優生保護法を巡る神戸地裁訴訟の原告のうち、2人が「不幸な子どもの生まれない県民運動」の実施期間中に不妊手術を施された。神戸地裁は判決で、2人の手術で旧法の規定が順守されていなかったと認定。法的要件を満たさないずさんな運用により、障害者の人権が無秩序に侵害された実態に光を当てた。

 判決によると、県内の男性と神戸市の女性それぞれが1968年、説明のないまま手術された。2人の障害は遺伝性とはみられず、同意もしていないため、旧法に基づく手術の対象外だった。

 さらに女性が受けた子宮摘出手術は、不妊手術の手段として法律で認められていなかった。地裁は、家族や介護者の意向により、生理の介助負担を減らしたり妊娠を防止したりする目的で、正常な子宮の摘出が度々実施された事実を認めた。

 判決には、原告の女性が後に手術について家族を問いただした際、「あんたのためにやった」と言われたとある。原告弁護団や支援者らは、こうした家族の考え方の前提に、優生思想の社会的な浸透があったと主張。障害者を不幸な存在と決めつけ、排除しようとする雰囲気を醸成したとして、同運動を批判している。

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