病床不足で新型コロナウイルスに感染しても入院先が見つからないケースが急増している問題で、自宅や入所施設での「自宅待機」に関連して亡くなる例が出ている。兵庫県尼崎市では、クラスター(感染者集団)が発生した施設に入所していた80代男性が感染し、入院できず施設に留め置きとなって死亡。家族の介護のため自宅療養を強く希望した患者の家族が感染して亡くなるケースもあった。稲村和美市長は「重症化リスクの高い高齢者はできるだけ自宅待機にならないよう、運用を見直すべきだ」と訴えている。(霍見真一郎)
同市の関係者によると、亡くなった男性は1月4日に発症。7日に感染が判明したが、当初は軽症で、全県的な病床逼迫(ひっぱく)もあり、クラスターが発生した施設に留め置きとなった。死亡はその4日後だった。症状が急変したとみられる。
一方、夫の介護のため自宅療養となった高齢女性は、退院基準を満たして治癒したが、その後、夫が呼吸器不全で市外の医療機関に救急搬送され、まもなく死亡した。夫はコロナの感染が確認された。感染経路は明確には分からないが、2人暮らしでもあり、女性からうつった可能性が高いとみられる。
同市では、14日までの感染者の中に60代以上が431人いた。そのうち入院先の調整が長期に及び、病院に入れないまま退院基準を満たすに至った人は、自宅で59人、施設で9人いる。
重症化リスクが高い高齢者などは入院にこだわるあまり自宅待機が増え、逆に低リスクの若者が宿泊療養施設に入れることが多いという。同市関係者は「安心のための入院原則に矛盾が生じている」と指摘する。
また、入院調整中に自宅で体に異変を感じると、病状はそれほど重くなくても極めて強い不安に陥り、救急車を呼んでしまうことも課題という。病床が逼迫しているために自宅待機しているのだから、救急車を呼んでも、重症者でなければ受け入れ先はなかなか見つからないからだ。
同市は、待機者の見守りを強化するため、感染者宅を往診する医師に協力金を出したり、万一往診で医師が感染した場合に休業補償を用意したりしている。
稲村市長はハイリスクの高齢者が自宅待機になりがちな現状を憂慮し、「軽症や無症状でも、急変リスクがある高齢者や基礎疾患がある人は、せめて宿泊療養施設に入れるようにし、医療的ケアも強化する必要がある」と話している。
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